その日、静かな山崎駅を降りまだ夏の余韻を残しながらの日差しと、はっきりと秋を思わせる風とを受けながら山荘送迎バスに乗った。線路を渡るのに何本か電車を見送り、目の前のしっかりと続く坂を上がると無造作にバスは止まった。私たちはゆっくりと外に出た。辺りを見回すと何の変哲もないむき出しの看板に、「秀吉の道」なんてものもある。西欧文化に憧れ、加賀正太郎自らが設計した「大山崎山荘」にモネを見に行こうとしているわたしの頭の片隅にはベートーヴェンの月光の2楽章が静かに流れていたのに、「秀吉」の名前を見て、遠くにほら貝の音とともに大軍勢の足音、鎧のきしむ音、馬の鼻息などが聞こえた気がした。が、これもまた、この道が様々な歴史を刻み、人々を育んできた道だからであろう。と、気を取り直し、有形文化財として新規登録されている「トンネル」を抜けた。
そこは秋に色づく前の伸びやかな木々の緑で気持ちよかった。きっと秋深くには紅葉が美しく、冬は凛としたたくましさを見せてくれるであろう。春には山の小鳥たちのさえずりとともに、小さな命たちが誕生し芽吹き、桜の花を誘いあたりを明るくするだろう。夏には思い切り伸ばした木々の枝葉は人々を心地よくしてくれるだろう。
その中にモネの絵や展示されているものを見る。訪れる者の気持ち、その日の気候、仲間と一緒か一人なのか、様々なシチュエーションで様々な思いや音が聞こえてきそうである。
2階にある喫茶の「テラス」からの景色は私にボレロを思い起こさせた。彼自身が思い描いている世界はもっと違うものだろうが。だが「大山崎山荘」は、手入れされた庭を散策し自然に目を向け歴史や文化に思いを馳せながら、自分を解放することの出来る、とっておきの場所である、ということには間違いない。皆様にはどんな音が聞こえてくるだろうか。
〒618-0071京都府乙訓郡大山崎町字大山崎小字銭原5-3
TEL:075-957-3123(開館時間:午前10時~午後5時)
http://www.asahibeer-oyamazaki.com